バイナンス、サークル株を1億ドル購入――市場価格から5%引きで
米証券取引委員会(SEC)への提出書類が示すのは、バイナンスが9月17日の一度の署名で、サークルの割安株の買い手、報酬を得る宣伝役、議決権付き株主の3役を同時に担ったことだ。流通規模約730億ドルのデジタルドルはいま、最大の販売棚を月単位で、自らの株主の一社から借りている。
Vincent Jiang · 3 min read
書類1通、バイナンスの3役
サークルが火曜日にSECへ提出した臨時報告書(8-K)は、一連の取引をすべて9月17日付と特定している。バイナンスはA種普通株123万7011株を1株80.84ドルで引き受けた。総額1億ドル。登録を伴わない私募で、決済前の市場価格から割り引かれた価格だった1。この価格は当日の終値85.09ドルを約5%下回り、サークルが結果的に手にできなかった調達額は約500万ドルに上る2。
同じ17日、両社は5年間の提携も結んだ。サークルは自社の「モジュラー・スマートコントラクト・ウォレット(Modular Smart Contract Wallet)」基盤を通じて保持されるUSDC残高の一定割合を、インセンティブ報酬として毎月バイナンスに支払う。バイナンスが自社プラットフォームでUSDCを推奨する見返りだ1。その割合が何%なのか、書類はひと言も触れていない。
販売棚の契約、期間は2倍に
2年足らずでこれが3度目の提携だ。最初の提携は2024年12月9日、アブダビ・ファイナンス・ウィークで発表された。USDCは2億4000万人超のユーザーを抱えるプラットフォームに行き渡り、バイナンス自身の社内資金(コーポレート・トレジャリー)にも組み込まれた3。この提携には報道によれば6025万ドルの前払い金が伴い、月次の報酬も上乗せされた。契約期間は2年だった2。
その後の2025年8月の合意も、火曜日の書類で置き換えられた1。新しい契約の期間は5年。前払い金は、市場価格を下回る価格で取得した株式に姿を変えた。
流通費はすでに収益1ドルの60セントを食う
新たな報酬が上乗せされるのは、閉じる気配のない費用の勘定科目だ。サークルは第2四半期(4~6月)の収益7億100万ドルのうち、4億1200万ドルを流通・取引その他コストとして支払った。約59%に当たる。この比率は8四半期連続で約58~70%の間で推移してきた4。長年続くコインベースとの提携も同じ構図だ5。
サークルの収益1ドルのうち約60セントは流通パートナーへ
Data
| 流通パートナーへの支払分 | |
|---|---|
| 24年7~9月 | 57.8% |
| 24年10~12月 | 70% |
| 25年1~3月 | 60.1% |
| 25年4~6月 | 61.8% |
| 25年7~9月 | 60.5% |
| 25年10~12月 | 59.9% |
| 26年1~3月 | 58.6% |
| 26年4~6月 | 58.8% |
バイナンスの持ち分は、時価総額258億ドルの会社の約0.4%にすぎない5。取締役会の席はない。あるのは議決権付きの「取引先」だけだ。株式は2年間、売却できない1。サークルはいま、株主に金を払って顧客を務めてもらっている。
法案が葬られた週に買った堀
何よりもタイミングが物語る。米上院は9月15日、49対50でCLARITY法案を否決し、サークル株は同日13%下落した6。翌朝には、サークルが決済とAIエージェント商取引用に開発した新チェーン「アーク(Arc)」が稼働を始めた。ブラックロック、米デポジットリー・トラスト・クリアリング・コーポレーション(DTCC)、ビザ、マスターカードが検証者(バリデーター)に名を連ねる7。取引は17日に成立した。
強気筋の論理は単純だ。バイナンスは100カ国超で3億人にリーチできると説明する8。連邦レベルの法制度がない以上、流通網こそが残された唯一の堀になる。リチャード・テン氏は株式取得を「長期にわたる確信」と呼び、ジェレミー・オールレア氏は「スマートフォンを持つ人すべて」のためのデジタルドルを訴えた2。
見るべきはプレスリリースではなく支払い費目
市場の初動は好意的だった。月曜日に94.29ドルで終えたサークル株(CRCL)は、火曜日のプレマーケット(時間外)取引で1.3%超上昇した9。堀のコストはどこにも織り込まれていない。手数料率が秘密だからだ1。次回の四半期報告書(10-Q)では、この費用は流通コストの中に埋もれる。並んで記載されるのはUSDCの流通量で、6月末時点で733億ドル、1年間で19%増えた10。
残高の伸びが支払いの割合を上回れば、この「家賃」は安いものだったということになる。下回れば、サークルの株主には5年分の請求書を吟味する作業が残る。
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