IBM、勤続合計95年の従業員3人を解雇 誤送信されたSlackメッセージが理由を明かす

9月20日に連邦裁判所へ提出された訴状は、IBMが50代後半の従業員3人を解雇し、その職務を若手で埋め直そうとしたと主張する。証拠となったのは、誤って送信されたSlackメッセージだ。提訴から1日後にはIBM自身の調査がAIは人間の判断力を蝕むと警告を発し、同じ週にはAI時代の業績ガイダンスをめぐる証券当局の調査も始まった。

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Vincent JiangVincent Jiang · 3 min read
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ニューヨーク・マンハッタンのマディソン大通り590番地に建つIBMのオフィスタワー。マディソン大通りと57番街の交差点から撮影
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マンハッタン、マディソン大通り590番地のIBMビル。3人の元従業員が2026年9月20日、連邦裁判所に年齢差別の訴えを起こした

若手6割、新卒4割

IBMに27年、32年、36年とそれぞれ勤め、現在57歳、58歳、59歳の従業員3人が9月20日、マンハッタンの連邦裁判所に提訴した。3人は2024年9月、自分の職務が廃止されたと通告された。誰一人、警告を受けたことも、悪い評価をつけられたこともなかった。訴えの鍵を握るのは誤送信だ。IBMのバイスプレジデントが、削減されるまさにその職務の一部で、より若い候補者の面接を進めていることを示す社内連絡を、誤って3人のうち1人に送ってしまった——訴状はそう主張する。1か月足らず後の日付が記された計画文書は、代替人材の60%を若手を指す「アーリー・プロフェッショナル(Early Professionals)」、40%を新卒の「キャンパス・ハイア(Campus Hires)」と定めていた。 1

IBMの10年に及ぶ削減候補の86%は40歳以上、2024年の補充に40歳以上はゼロ

  • 40歳以上の従業員
  • 若手・新卒(アーリー・プロフェッショナル/キャンパス・ハイア)
0%50%100%2024年の職務廃止2013〜18年の削減候補プール2013〜18年の米国全体の人員削減60%0%40%100%
Data
40歳以上の従業員若手・新卒(アーリー・プロフェッショナル/キャンパス・ハイア)
2024年の職務廃止0%100%
2013〜18年の削減候補プール85.85%14.15%
2013〜18年の米国全体の人員削減60%40%
構成比。9月20日の訴状は3職務の補充人員をアーリー・プロフェッショナル60%、キャンパス・ハイア(新卒)40%として計画(定義上、100%が40歳未満)。訴状が引用した米平等雇用機会委員会(EEOC)の分析では、2013〜2018年に削減候補となった人材の85.85%が40歳以上だった。2018年のProPublica(プロパブリカ)調査では、5年間の米国全体の人員削減の約60%を40歳以上が占めた。出典:訴状(HR Capitalist経由)、ProPublica1,2

文書の記録は2018年までさかのぼる

「人員削減(リソース・アクション)」「勤続構成(シニアリティ・ミックス)」「スキル再編(スキル・リミックス)」「若返り採用(リバイタライゼーション・ハイアリング)」――訴状に並ぶ語彙は、いずれも何年も前に文書化されていた。2018年のProPublica調査は、IBMが5年間で40歳以上の米国従業員を2万人超削減したと推計した。米国全体の人員削減の約6割に相当する。当時の社内プレゼン資料は「勤続構成を是正する」と唱え、「EPの流入」に資金を充てるよう求めていた。EPは「アーリー・プロフェッショナル」(若手)の略語だ。2 その後の訴訟で引用されたIBMの計画は、「変化を加速」させるとして、「ダイノベイビー」(恐竜の赤ちゃん)と呼ばれる年長社員に退社を促し、「絶滅種」にするものだった。「時代遅れの母性型労働力(dated maternal workforce)」と描写する社内メモも引用されている。3 今回の訴状は米平等雇用機会委員会(EEOC)の分析を引用し、2013〜2018年に削減候補(人材プール)全体の85.85%を40歳以上の従業員が占めたと指摘。さらに、ほかに誰が削減されているかを各労働者に示すはずの開示規則を、IBMが回避したとも主張している。1

夕暮れのニューヨーク州ヨークタウン・ハイツにあるIBMトーマス・J・ワトソン研究所
ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツのIBMトーマス・J・ワトソン研究所。2018年の調査で、同社が5年間で40歳以上の米国従業員を2万人超削減したことが、「勤続構成を是正する」とうたう社内資料とともに明らかになった。 · Simon Greig

ガイダンスは5%超成長、実績は1%増、メインフレームは42%減

  • IBMの売上高成長率
  • IBM Zメインフレームの売上高成長率
  • Estimate
-60%-40%-20%0%20%2026年4月のガイダンス2026年第2四半期の実績ゼロ成長1%
Data
IBMの売上高成長率IBM Zメインフレームの売上高成長率
2026年4月のガイダンス (estimate)5%—
2026年第2四半期の実績1%-42%
前年同期比の売上高成長率(%)。2026年4月は5%超の成長を見通すガイダンス(推計値)、2026年第2四半期は7月14日に発表された実績。この四半期はZメインフレームの売上高が51%増から42%減へ急転し、1日で680億ドルの時価総額が消えた。出典:The Inference、2026年9月26日。7

IBMの答え――言葉に年齢の意味はない

IBMには答えが用意されている。以前の年齢差別訴訟では、同社自身の弁護士が「アーリー・プロフェッショナル・ハイア(Early Professional Hire)」「リバイタライゼーション・ハイアリング」「スキル・リミックス」に年齢に関連する意味はないと主張した。4 5月には、採用選考ソフトがアーリー・プロフェッショナルの採用を優遇していると訴えたテキサス州オースティンの別件訴訟に応じて、IBMは「いかなる種類の差別も容認・黙認しない」と述べ、AI選考をめぐる主張には根拠がないと反論した。5 今夏には、63歳の元社員による組織的な差別の申し立てを、裁判で争う道を選ばず和解して決着させた。6 今回の新たな主張はいずれもまだ審理されておらず、裁判官の判断も出ていない。1

サンフランシスコのハワード・ストリートに建つSlackのオフィスビル。北東側から撮影
サンフランシスコにあるSlackのオフィス。訴えの焦点は、IBMのバイスプレジデントが削減対象の従業員1人に誤送信したとされるSlackメッセージだ。そこには、削減対象の役職について若い候補者の面接が進められていた実態が記されていた。 · HaeB

1%増の四半期、消えた680億ドル

4月のガイダンスは5%超の成長だった。ところが7月14日の決算では伸びが1%にとどまり、Zメインフレームは51%増から42%減へ急転、1日で680億ドルの時価総額が消えた。9月23日には証券当局の調査が始まった。7 訴えの提起から1日後、IBMは最高人事責任者(CHRO)調査を発表した。調査に回答した人事トップの71%が、AIの出力の監視と検証を職場で最も不可欠なスキルと位置づけた。一方、従業員の60%はAIに自らのスキルを蝕まれていると答え、最も多く挙がった「犠牲」は批判的思考だった。2026年のある評価では、若手労働者は批判的思考が平均以下とされている。89 IBM自身の研究が、いまやAIは判断力を蝕むと警告している。訴状が描くのは、最も経験を積んだ人間をすでに手放し続けてきた企業の姿だ。

IBM自身の調査:人事トップの71%と従業員の60%がリスクを認識

0%20%40%60%80%人事トップ:AI出力の検証が最重要スキル従業員:AIにスキルを蝕まれている2026年の評価:若手の批判的思考は平均以下50%
Data
回答者の割合
人事トップ:AI出力の検証が最重要スキル71%
従業員:AIにスキルを蝕まれている60%
2026年の評価:若手の批判的思考は平均以下50%
回答者に占める割合(%)。2026年9月21日に発表されたIBMの最高人事責任者(CHRO)調査では、回答した人事トップの71%がAIの出力の監視と検証を職場で最も不可欠なスキルと位置づけた。一方、従業員の60%は、自らが重要だと考えるスキルがAIに蝕まれていると回答し、最も多く挙がった犠牲は批判的思考だった。3本目の棒は、HR Diveが報じた2026年のある評価で、若手労働者の批判的思考を平均以下としている。この値は範囲の中間点として図示しており、縮尺は他の項目と同一ではない。出典:IBM Newsroom(2026年9月21日)、HR Dive(2026年9月23日)8,9

Slackメッセージが明暗を分ける

訴えは過去の賃金相当額(バックペイ)、復職、懲罰的損害賠償を求める。原告3人のうち2人は、報復(リタリエーション)を理由とする請求も加えた。1 誤送信されたSlackメッセージが証拠開示(ディスカバリー)を生き残るのか。それとも、この「パターン」をめぐる主張も、過去に和解で終わった事例と同じように静かに立ち消えるのか。IBMの本音が透けて見えるのは、ニューヨーク南部連邦地方裁判所での対応だ。

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